総力戦 コールサイン00

総力戦 コールサイン00


目次


砂塵の舞うアビドスの砂漠にて、少女たちが相対する。

 

「ようやく見つけたぜ、あんたがアビドスの幹部ってことでいいんだよな?」

 

「はい♡ 私がアビドス再教育室担当、浦和ハナコです♡」

 

ネルの指摘に、ハナコは笑みを崩さぬまま頷いた。

その柔らかな物言いに、ネルの額に青筋が立った。

戦う人間の覇気を感じられなかったからだ。

 

「随分とまあ、ナメた真似してくれたじゃねぇか。おかげでどこもかしこもボロボロだ」

 

「私たちは美味しい砂糖を広めただけですよ♡ 何か問題でも?」

 

「大アリだよクソッたれ! これからテメェら全員ぶちのめしてやるから覚悟しな!」

 

「まあ野蛮ですね。分断されて、ここには貴女一人しかいないというのに」

 

「ああ確かに、まんまとやられたよ……」

 

そう、ここにはネルしかたどり着けていない。

途中で張られた罠や重要拠点の制圧などで人員が割かれ、前線には他のC&Cメンバーはいなかった。

ハナコの悠然とした態度をみると、それもまた仕組まれたことだったのだろう。

ここで、ネルを仕留めるために。

 

「だがな、あたしが一人だからって、そう易々とどうにかできるだなんて思ってるんだったら、痛いしっぺ返しを食らわせてやるよ」

 

「痛いのも好きですけど、ここは抵抗させていただきます♡」

 

「やってみな!」

 

「では皆さん、お願いしますね♡」

 

ハナコの合図とともに、傍に控えていた少女たちが一斉にネルへ銃を向けて発砲する。

一点集中で放たれたそれを、ネルは横に跳んで躱した。

 

「おらおらおら! どうしたどうした! 威勢のいいこと言った割には、数撃ちゃ当たるつまんねぇ戦法しかできねぇのかよ!」

 

縦横無尽に走りながら撃ち、弾丸をばら撒いていくネル。

的確に当たって一人また一人と少女たちは倒れていく。

あまりにもお粗末だとネルが笑ったとき、

 

「そうですね、ではこうしましょうか♡」

 

「あぐっ」

 

「はぁ?」

 

ドス、とハナコから伸びたホースが意思を持って傍にいたハレに突き刺さる。

うめき声を上げて痙攣するハレの姿を見て、すわ仲間割れか、とネルが警戒した時、ギィン、とハレから電磁波のようなものが放たれ、ネルは後ろに跳んで警戒レベルを上げた。

 

「虐めてなんかいません♡ むしろ気持ち良くなっているでしょうね。今私とハレさんでつながっているこの状況は、砂糖の快楽すらも共有しているのですから」

 

「再教育部隊……全権限をハナコ様に移行」

 

ハレの喉から機械的な言葉が漏れる。

 

「私の指揮能力と頭脳、ハレさんの情報処理能力と発信能力をタイムラグなしでやり取りします。するとですね?」

 

ハナコの言葉に、ネルの背筋が粟立つ。

今まで数合わせでしかなかった少女たちの雰囲気が変わったのだ。

ぼんやりと立っていた少女たちが、ロボットのように画一的な目でネルを見つめていた。

 

「なんだこの感じ……こいつら、動きが!?」

 

少女たちがネルを狙う。

とっさに顔を逸らして直撃を避けるが、頬を掠めた弾丸がネルに痛みを与える。

一発一発が強化され、カスっただけでも先程までとは威力が違うことを実感させた。

 

「こんなのまるで、先生の――」

 

「先生ほどの力はありませんが、シッテムの箱の真似事くらいはできるようになったんです♡」

 

まともに戦ったことのないゲーム開発部を相手にした時の、生徒の力を引き出す先生のような力だった。

ネルの挙動を読み取り、未来でも見えているかのように、一秒ごとに動きを修正しながら逃がさないと蛇のようにしつこくネルを狙ってくる。

 

「これでも勉強は得意なんです♡ 先生はシッテムの箱を使って、たった四人の補習授業部でミカさんとアリウスの生徒たちを相手に戦えるようにしてくれました。それを見ていて、私ができないと思いますか?」

 

「ハッ、面白くなってきたじゃねぇか! コールサイン00、掃除を始めるぜ!」


後編

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